分析の事例


 

1. 合金試料の組成分析

 もっとも代表的な依頼の一つです。各種合金等の平均的な元素組成を得ます。通常、いわゆるガス成分である水素・炭素・窒素・酸素・硫黄を対応するガス分析装置で、その他の成分をICP発光法で定量します。ICP発光法で検出感度が著しく低い元素は、原子吸光法で定量します。痕跡元素のデータが必要な場合、ICP質量分析法の適用も検討します。例えばコバルト-クロム-モリブデン合金(何れも単位は % (質量))なら Co (Bal.), Cr (26.5-30.0), Mo (4.5-7.0), Ni (<1.0), Fe (<1.0), C (<0.35), Mn (<1.0), Si (<1.0), W (<0.2), P (<0.02), S (<0.01), N (<0.25), Al (<0.1), Ti (<0.1), B (<0.01) という具合です (JIS T 7402 など参照)。セラミックス等の無機材料や天然鉱物等も、ほぼ同様に定量できますが、炭化物中炭素、窒化物中窒素、酸化物中酸素などの精確な定量は困難(信頼性は劣りますが分析は可能)です。

 材料組成を確認したい(材料評価、仕込みとの差、他分析との比較・検証、既製品・不明品の調査など)、材料間の組成差を調べたい(実験条件と組成との関係、実験前後の組成変化など)、意図しない元素の混入の有無や程度を確認したい(材料そのもの、原料物質など)、等々の目的に応じて、より適切な分析条件を選択できるかもしれません。可能な限り、事前の情報提供・相談をお願いします。

 

 例) 工具鋼のICP発光分析 (単位: 質量分率%; 認証標準物質JSS602-11, 0.20 g)

分析値1 分析値2 認証値
バナジウム 0.229 0.222 0.218
クロム 0.369 0.358 0.366
マンガン 0.302 0.293 0.301
コバルト <0.004 <0.004
ニッケル 0.158 0.154 0.1547
モリブデン 0.049 0.047 0.0455
タングステン 3.69 3.59 3.57

  doi: 10.2355/isijinternational.ISIJINT-2019-393 の方法で定量分析.

  当室では通常、併行2回の分析値を報告しています.

    

2. 純金属の評価 (= 痕跡成分元素の定量)

 90%(質量分率)を超える成分の精確な定量は一般にきわめて困難なため、通常、純度を評価したい場合は、痕跡成分元素を網羅的に定量し、差分法で値を求めます。共存しやすい元素がそれぞれ異なるものの、全ての元素の定量は現実的ではありません。例えば市販の純Fe認証標準物質には、C, Mn, P, S, Si, Cu, Ni, Cr, N, Al, Co, Mo, O, Sn, Ti, V, W, Ag, As, B, Bi, Ca, Mg, Pb, Sb, Se, Ta, Te, Zn, Zr の何れかの認証値を与えたものが存在しています (標準物質のカタログなど参照)。このような情報を参考に、また定性・半定量を行なった上で、痕跡成分組成を求めることになるため、手間がかかる上に高コストです。

 

 例) 純鉄の定量 (単位: 質量分率%; 認証標準物質JSS001-8)

  分析値1 分析値2 認証値 方法
炭素 0.00010 0.00011 0.00014 燃焼-赤外線吸収法
ケイ素 <0.00002 <0.00002 (<0.0002) フッ化ケイ素気化分離-吸光光度法
マンガン 0.000001 0.000002 (<0.00003) 4-メチル-2-ペンタノン抽出分離-ICP発光分析法
リン <0.00001 <0.00001 (<0.0001) モリブドリン酸抽出分離-吸光光度法
窒素 0.00012 0.00013 (0.0002) 不活性ガス融解-熱伝導度法
ヒ素 <0.00002 <0.00002 <0.00005 二酸化マンガン共沈分離-ICP発光分析法
ホウ素 0.000010 0.000011 0.000012 ホウ酸メチル蒸留分離-クルクミン吸光光度法
セレン <0.00001 <0.00001 <0.00005 パラジウム共沈分離-黒鉛炉原子吸光法
ニオブ <0.000008 <0.000008 <0.00005 陰イオン交換分離-ICP質量分析法
0.000019 0.000020 0.000019 4-メチル-2-ペンタノン抽出分離-ICP質量分析法

   認証値欄の( )は参照値. doi: 10.2116/bunsekikagaku.50.383に分析方法の詳細.

   上記の多くが分析成分とマトリックス成分との分離操作を伴いますが、

   純鉄サンプル以外の場合には直接法(分離操作なし)を適用せざるを得ないことも多く、

   このときには1~2桁上(分離操作ありで<0.00001% なら、直接法で<0.001%~<0.0001%程度)

   までの結果しか報告できないこともしばしばですので、ご注意ください. 

 

3. 薄膜・キャピラリ―

 シリコンやガラスなどの基板上に蒸着した合金等の組成評価のために、付着した各元素の総質量を得ることが可能です。キャピラリ―に充填した粉末サンプルについても、同様に各成分の質量換算した結果を報告します。基板やキャピラリ―中にも分析対象元素が含まれている場合は、正しい定量が極めて困難です。

  例) アルミナ(Al2O3)基板上の金属薄膜に含まれる微量成分のアルミニウムを定量したい。

      1) 金属薄膜を酸分解した際、基板由来のアルミニウムもサンプル溶液に入る

        おそれを考えておく必要があります。基板のみ(ブランク試料といいます)も

        同一処理して分析することで、影響の有無を評価します。

      2) 金属薄膜をアルカリ融解しなければならない場合、多量のアルミニウムの混入を

        避けることができません。他の材質の基板でのサンプル作製を検討ください。

    主成分だけではなく、基板やキャピラリ―中の微量成分が酸処理時に溶出することもあります。

    依頼の際には、かならず元の基板やガラスキャピラリ―も一緒に提供ください。

 

4. 溶液

 金属・無機材料の溶出試験における溶出液の定量などが可能です (JIS T 0304 など参照)。サンプル溶液中の各成分の濃度 (例えばμg/mL)、あるいは提供サンプル全量に含有する各成分の含有量 (例えばmg) 等のデータを報告します。

 イオンクロマトグラフィーを用いた溶液中の陰イオン等の分析も可能です。

  例) 溶出試験の場合、試験液の組成が重要です。

     例えばナトリウム塩やカルシウム塩などを高濃度に含有する場合、装置汚染を

     避けるため誘導結合プラズマ質量分析の適用はお断りしています。

     当室では、誘導結合プラズマ発光分光分析または原子吸光分析にて対応します。

     また、これらの分析では、サンプル溶液中と、当室にて調製する検量線用溶液中の

     共存成分組成を一致する(マッチングといいます)必要があります。

     依頼の際には、正確な組成データまたは未使用の試験液そのものを提供ください。

 

 

以上が代表的な依頼ですが、これらに限らず受託できる分析もあるかもしれません。また、従来の方法では依頼者の求めるデータを得ることが困難な場合であっても、共同で技術開発を進めつつデータ取得を目指すことも可能かもしれません。ぜひ、ご相談ください。